コロナ禍で変わりつつある飲食業界自前主義から外部資本を取り入れた新たな経営モデルが必要に

〜スパイラル・アンド・カンパニー、「飲食産業の実態とこれから」の最新レポートを発表〜

もうすぐ底値が落ち着いてM&Aが増えてくる

ー 現在、飲食業界のM&A市場はどのようになっているのでしょうか。

太田諭哉(以下:太田) 一言でいえば「買いたいけど買えない」という状況ですね。なぜなら、ある程度資本がある上場企業も痛手を負っているからです。一方でファンドの場合は昨年末など、コロナ禍の前に調達しているケースが、飲食だけではありませんが多く見られました。彼らは今、投資はしたいものの、どの企業の収益状況が健全なのかを見定めている状況です。

ー 動きがあるしたら、どのような状況になるとお考えですか?

太田 よく、底値の金額で評価するという話を聞きます。以前は比較的高く、EBITDAの8倍や10倍の値が付いたのが、コロナ後はその倍率が4倍から6倍に評価額が変わってきており、その底が見えてくれば買えない話ではないでしょう。

ー 底がまだ先ということですね。

太田 時間軸をより広げると、3.11や9.11のときも市場はダメージを受けました。外食業界も例外ではありません。ただ、ダメージを負ったときこそ買いどきだということを知っている投資家が多いのも事実です。つまり、今がまだ大きく動いていないことは、底値ではないと判断されているということです。

ー まだ底値になっていない背景には、何がありますか?

太田 以前からの借入金や助成金で運営できていることが背景にあります。ただ、来客数や売上が回復しない場合はさらなる融資のニーズが高くなります。

ー そういった状況を、経営者と投資家がお互いに探り合っている状況だと。

太田 しばらくはそうでしょう。ですので、売り出されるケースはまだ多くありません。私の方で相談が増えているのは「いつかそうして売りたいと思っている」というものですね。

ー ゴールを数年後に見定めているということですね。

太田 はい。そしてこの話はIPOに関しても同様です。コロナ前は目指していたが、このタイミングと今の年齢、また今後コロナのような状況にならないともいえないと。IPO自体が数年延びる見込みであり、であればM&Aを考えるという飲食経営者は増えています。これは年齢にもより、30代や40代前半ならまだIPOも目指せるが、それ以上になればしんどいと。また会社の規模が大きいと、責任の度合いも違いますし。

ー 年齢や規模というのは外食以外でも当てはまりそうです。

太田 ウイルスは冬を迎えるとわからないという声もありますが、世の中のコロナ禍はある程度落ち着いてきたといえます。その面では、外食業界も底は脱却したと思いますし、数字の面でこのまま2~3カ月安定してくれば評価できるという状況になるでしょう。

情報量とスピードと資金力が勝敗を決める

調査期間:2020年8月4日〜同年8月7日
調査方法:インターネット調査
調査目的:新型コロナウイルスによる事業の成長戦略の変化の調査
有効回答:飲食店の経営者・役員105名

ー 今回のリサーチで、M&Aを考えている飲食企業は10%強、他社との協業を考えているという声を合わせれば約30%という結果が出ました。これについてはどのようにお考えですか。

太田 自社で業績を伸ばすより、別の力を借りたほうが効率的だと考えている経営者が多いのだと思います。いちから店舗を立ち上げるのは自社で行うものの、特に既存店の立て直しに関しては、他社の力を借りたほうが得策だと思っているのではないでしょうか。飲食店の経営者はある意味クリエイターであり、繁盛店を創り上げることに長けた人がトップを務めています。一方で既存店の回復は、リカバリーの分野に長けた人や企業が立て直した方が賢明だともいえるでしょう。

ー 差が出てくるとすれば、どういったところがポイントでしょうか?

太田 情報量とスピードと資金力です。例えば、補助金ひとつにしても知っていたかどうかで違います。そういった結果として優位な決断ができ、成功の確率も上がっていくといえるでしょう。

ー 財務の専門家は、このような場面で重要になってくるんですね。財務戦略からみた経営や事業戦略はどのようにあるべきとお考えですか?

太田 先述したようなニーズやトレンドを読み取り、具現化する力です。いちから作るのであれば、都心より郊外。郊外であればどういう業態がよくて、どんな立地がベストなのかと。そこに的確にフォーカスし、経営資源を投下できる経営者が勝っていくと思います。

ー 的確なタイミングに的確な投資ができる経営手腕だと。

太田 その点ではやはり、キャッシュの確保や資本の増強も重要です。飲食は、外部から資本を入れるケースは少なく、内部留保が多い業界です。債務過多によって借り入れが増えているため、それだけではなく資本業務提携をするなども検討の余地はあるでしょう。このタイミングだからこそ、興味をもっているファンドもいるので、目を向けてみてもいいのではないでしょうか。

ー 確かに、今だからこそというケースはありそうですね。

太田 たとえばIT企業であれば外部資本の活用は一般的ですが、飲食ではまだまだです。これは情報量の違いや、業界の文化の差が関係しています。これまで飲食業界は、借り入れた資金で利益を出して内部留保を貯め、そこから店舗を拡大してまた借り入れるという成長戦略がスタンダードでした。そのため、外部資本という手段があることはあまり知られていなかったかもしれません。

ー 業界ごとの文化の差、興味深いお話です。

太田 ただしこの数年で新たな上場企業も増えており、国内企業が海外で活躍するようなグローバル化も進んでいますから、M&Aも増えていくと思います。また、身近な経営者の中でM&Aの成功例が出てくれば、その成功事例を追う形でどんどん増えていくでしょう。

ー その成功事例というのは、比較的若い層になるのでしょうか。

太田 そうですね。特に若い世代の飲食経営者にはチャレンジャーも多く、M&AやIPOからEXITを経るシリアルアントレプレナーも出てくると思います。飲食業界のエコシステムができ上がっていくともいえるでしょう。その切り口のひとつは、飲食業界におけるIT化と、海外への産業輸出。日本の食は、輸出で勝てる数少ない産業です。今は世界的なコロナ禍で止まっていますが、また必ず上がっていく分野です。特に東欧や南米、アフリカはほぼ未開の地であり、北米もまだまだ可能性があります。

正しい判断をするために財務のアドバイスを

ー 今後必要になる財務アドバイザーや、財務責任者の役割について教えてください。

太田 財務全体で必要なことは、まずは店舗別月次の損益を把握できていることです。その次に、直接的な資本調達を施行できて相談できるかどうかです。銀行の借り入れだけに依存しない、資本業務提携を進められる飲食企業が強くなり、勝ち負けの差も出てくるでしょう。

ー 現状を知ったうえで攻めに転じると。

太田 また、経営自体も筋肉質でないと、投資家が興味を示しません。筋肉質な会社はより筋肉質になり、強者はより強者になるのです。M&Aの成功事例が増えれば増えるほど、情報も資金力も、人材などのチームとしても差が付くようになります。

ー コロナを経た今後、飲食業界のM&Aはより増えていきそうですが、ますます競争も激しくなりそうですね。

太田 ティッピングポイントは近々来るでしょう。これまでの飲食業界は多くが自前主義で、横並びで切磋琢磨していた状況でした。しかし遠くない未来にパラダイムシフトが起きたときに、時勢をキャッチアップして正しい方向性を見いだせるかどうか。それを決めるのもまた、財務の専門家に相談できるかどうかだと思います。

 

2020年10月7日 プレスリリース >>>